福岡地方裁判所 昭和39年(む)26号 判決 1964年2月12日
被告人 矢ケ部巽 外一名
決 定
(被疑者氏名略)
右両名に対する公務執行妨害被疑事件について昭和三九年二月一〇日福岡地方裁判所飯塚支部裁判官菅納一郎のなした各勾留の裁判に対し、右両名の弁護人から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件各勾留の裁判はいずれもこれを取消す。
被疑者等に対する福岡地方検察庁飯塚支部検察官の勾留請求はいずれもこれを却下する。
理由
第一、本件準抗告の理由
末尾添付の弁護人の準抗告申立書記載のとおり
第二、当裁判所の判断
一、被疑者両名が勾留状記載の犯罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること、および、右両名が定まつた住居を有し、逃亡し、または逃亡すると疑うに足りる相当な理由がないことはいずれも本件被疑事件記録によりこれを認めることができる。
二、被疑者両名が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるかどうかについて判断する。
本件被疑事件につき捜査当局が捜査に着手し、検証並びに人証の取調べを進めるに及び被疑者等所属の福岡県生活保護者同盟(以下単に福生同という)はその統制力を利用して所属員に対し捜査当局の参考人呼出に対しては極力これが出頭を拒否せしめ、あるいは参考人に対し威迫的言動をなす等の対策を講じていることが窺われ、また被疑者等の福生同における地位並びに被疑者等の捜査当局に対する供述態度等を併せ考えると被疑者等は罪証を隠滅するおそれが全然ないものとは断定し難く、従つて原裁判が被疑者等に逃走のおそれがあると認めたのは前記説示に照し当を得ないが、罪証隠滅のおそれがあると認めたのは必ずしも失当であるとはいい難い。
然しながら他面本件資料により更に考察すれば、福生同の右の指導統制は被疑者等を勾留すると否とに拘らないことが推察されるのみならず、既に事件発生以来五〇日余を経過し多数の参考人の取調べも終了し、大綱的には捜査を遂げていることが認められるので、現段階においては被疑者等につきその勾留を必要とするだけの罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるものとはたやすく認めることができない。
三、よつて弁護人の本件準抗告は理由があると認められるので右の申立を許容すべく、刑事訴訟法第四二六条第二項、第四三二条を適用し、右の被疑者両名について福岡地方裁判所飯塚支部裁判官のなした各勾留の裁判をそれぞれ取消し、検察官の各勾留請求はいずれもこれを却下することとする
以上の理由により主文のとおり決定する。
(裁判官 江藤盛 藤島利行 網脇和久)